色違い~反転

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急ブレーキにタイヤを鳴かせ、迫る車。
目を逸らせず、呆然と立ち尽くした。
『試してみなきゃ判らないわ』
『だったら試してみれば?』
私は彼の傷を抉ったのだと思った。反転色覚の街で、緑に染まる私の血を思った。許されるなら、せめて詫びたかったと思った。

――瞬きひとつ。
空は青に、雲は白に、木々は緑に。
怪訝そうな肌色の通行人が、路肩に佇む私を避けて行く。
「解っただろう?俺と君は見てるものが違う」
押し殺した声は、その場に崩れ落ちそうだった。
「死ぬまで埋まらないし、気にしないなんて無理だ。引き返すなら今のうち……」
高い音で、彼の頬が鳴った。
「違うから駄目なんて、誰が決めたの」
初めて人を叩いた掌が、じんと痺れてむず痒かった。
「埋まらなくても、並んで歩くくらい出来る!」
車道の信号が青に変わり、動けないまま赤になった。
長い腕に抱き竦められ、傍にいてくれと、泣く様な囁きを耳に聞いた。
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公開:19/08/11 01:35

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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