渋谷徹底攻略

村の公民館は、異様な熱気に包まれていた。

「いいか？君達はいずれ巣立つ。東京へ行く者もいるだろう。その東京で一番ヤバい街が、渋谷だ！」

子供達が見つめる中、熱弁を振るう三十路の男。その傍らには「渋谷徹底攻略！」の檄文。

「田舎者が渋谷でナメられないためには、理論武装が必要だ！マルキューがなぜ109か知ってるか？108は人間の煩悩、110は警察……つまり、煩悩を超越した犯罪スレスレの行為があそこでは行われている！油断すると大量の服を買わされるぞ！」

「……山下？」

スーツ姿の男が入口から声をかける。

「に、西岡！なぜここに？」
「法事で今朝東京から帰ってきたんだ。……渋谷徹底攻略？お前、渋谷行ったことねぇじゃん！」

子供達がザワつく。

「静かに！この男は嘘をついている！次はハチ公の妹のナナコの話をするぞ！」

羨望の眼差しで西岡のもとへ駆け寄る子供達に、その声は届かなかった。