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そこにいるのに、現実感を伴わない。ふわふわと浮かぶ仮想現実の中のよう。背中に背負った夢を元手に、渋谷駅に降り立つ。ハチ公前に出て、待ちあわせする人たちの中に紛れてみた。待っているのはもう来ない誰か。ハチ公みたいに。
想い出にさよならして、駅前のスクランブル交差点で信号を待つ。ビルの壁面の大画面に映し出される映像がイマなんだと、眺めては暇を潰しているうちに、信号が青に変わった。一斉に動き出す人の流れに、合わせないと動き出せない。怖くても進めば、ぶつかりながら渡り切れるものだ。
心の準備はいいですか。私が私に訊いてみる。なんとか大丈夫。まだ時間はあるから。渋谷TSUTAYA前で人通りが少なくなるのを待って、セッティングをはじめる。背中から下ろしたアコースティックギター。チューニングをしても、誰も目に止めず、立ち止まる人もいない。みんな知らない。だから知って下さい。歌をうたうから。
その他
公開:19/11/12 14:58

みやふきん

Twitterでは140字小説、カクヨムでは掌編を書いてます。別のペンネームで小説家になろうで短編を書いてます。
せつなくてさみしいけれどほんのりあたたかいおはなしが好き。

たまにこちらにも書いてみようと思います。
よろしくお願いします!

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