折り畳み傘

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 いいかげん安物の傘は飽きた、と大村は思った。
 時間潰しにと立ち寄った駅前の小綺麗な雑貨店で、ふと洗練されたデザインの折り畳み傘と目が合ったとき、なぜか大村はそう思った。
 雨の日はそれから何度もあったのだが、なぜか大村は新しい傘を開くのをためらった。まだこの傘を使うのは勿体ない。高かったんだから、と思う。
 ところがとうとうこの折り畳み傘を開くしかない、という日が来てしまった。開いてみれば、清々しい気分になった。
 やがて雨は止み、大村は傘を閉じる。なぜか父を思い出した。仕事ばかりでろくに子供の面倒を見なかった父が、唯一大村に教えてくれたのは、傘は丁寧に畳め、ということだった。丁寧に畳むと何かいいことあるのか?
 折り目を指先で整えて、くるくると回し、ピタッとマジックテープを止める。まぁ、悪くない気分だ。父もそう感じていたのか。
 再び歩き出すと、また雨がぱらぱらと降り出した。
……。
その他
公開:19/11/12 09:14

水素カフェ( 東京 )

 

最近は小説以外にもお絵描きやゲームシナリオの執筆など創作の幅を広げており、相対的にSS投稿が遅くなっております。…スミマセン。
あれやこれやとやりたいことが多すぎて大変です…。

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