渋谷昔話

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「ババア!返せないなら、一生ここで物乞いでもしてろ!」
黒いシャツの男がそう叫ぶと、休日のハチ公前の空気が、一気に張り詰めた。
2人の強面の男が老婆から借金を回収しているようだ。老婆はハチ公にもたれて震えている。
「2000万、いつ返すんだ」と言って、角刈りの方が老婆の胸ぐらを掴んだ時、東の宮益坂の方から、ドスンと轟音がし、巨大な鉄球が転がってきた。
信号機は倒れ、車はペットボトルのように、ひしゃげた。人々は、つぶされまいと、歩道の端や建物の中に逃げ込み、難を逃れた。
やがて鉄球はスクランブル交差点を渡り、駅の方へやって来た。
「逃げろ!」
2人の借金取りはたまらずJRのガード下に逃げ込んだ。
「ここなら大丈夫」と黒シャツが言った瞬間、鉄球はスッと小さくなり、男たちの上を通りすぎた。アスファルトには、鮮烈な赤の轍が残った。

2人の保険金は合わせて2000万だったらしい。
その他
公開:19/11/11 22:16
更新:19/11/14 21:26

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