初めの一歩

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渋谷デビューの苦い記憶。五年前は恋も涙も笑顔も詰まっている大切な場所になるなんて、初めて足を運んだ時には夢にも思わなかった。
あの頃の私は、テレビでしか見たことのなかったスクランブル交差点を渡ることに憧れていた。信号待ちしながら背の高いビルを眺めていると、私は東京、それも渋谷にいることに実感を持ち始めることができた。正直、知り合いのいない土地での一人暮らしに対して不安はあったけれど、何かが変わるという期待の方が大きかった。単純だったけど、憧れの景色に立っていることに浮き足立っていたのだ。
後方から舌打ちが聞こえた。景色に夢中になっていたせいで信号が青になったことに気付かなかった私はマスゲームのように一斉に動き出した人波の異物になっていた。
恥ずかしさと怖さで定まらない視線の先に見えたTSUTAYAの文字。地元でも見たことのあるアルファベットに安堵した春、忘れられない大事な思い出。
青春
公開:19/11/12 21:05
更新:19/11/13 00:49

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