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 上京したての嘉人は、煌めくネオンにすっかり目を奪われた。人波にのって、渋谷センター街を歩いていく。
「黄色い風船だ……」
 ふいに立ち止まると、後ろから強く押された。体がふらりとよろめく。金髪の美女が路地に入っていくのが、ちらっと見えた気がした。
 昔、近所に住んでいた金髪の少女と、よく公園で遊んだ。だが、風船が木枯らしに吹き飛ばされたその日、もう見知らぬ子と遊ばないよう、母から諭されたんだ。
 足早に人混みをすり抜けて、雑居ビルの螺旋階段を二段飛ばしで駆け上っていく。屋上のフェンスに引っかかった風船を、両手でつかむ。
 すると、いつからいたのか、女がそばに立っていた。
「Here you are」
「Thanks!」
 女の姿がぱっと消えた。風船が、空高く飛んでいく。
(さあ、明日から憧れの商社で、バリバリ働くぞ)
 嘉人はすかっとした気分で、まあるい風船そっくりな満月にかたく誓った。
ファンタジー
公開:19/11/12 13:00
更新:19/11/16 12:06

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