渋谷系サンクティファイ

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 渋谷上空に大きな穴が開いた。理由は知らない。たぶん偉い人たちの実験とか、そんな感じだろう。

「たすけてくれえ」

 今日も一人、吸引力の変わらないただひとつのホニャララよろしく、穴へ男が引きずり込まれていく。地についていた足がふわりと浮き上がったが最後、あとは剥がれかけたシールをめくるように、人はあっという間に空へと消える。

「なんなんだろうね?」

 妹が言う。彼女の靴は109で買った、109kgの流行りのショートブーツ。皆じりじりとしか歩けないので、スクランブル交差点は依然カオス状態だ。
「うーん」
 あまりに前に進まないので、歩きながらでも本が読める。僕は鉄のカバーをかけた文庫本を斜め読みしながら、妹の問いに答える。
「たとえば、浄化とか」
「それは穏やかじゃないね」
 そうだろうか? 
 僕は空にぽっかり浮かぶ穴を見上げる。さっき買ってきた小説は、もう終盤にさしかかっていた。
SF
公開:19/11/11 13:01

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