飛沫、支部長、渋谷前

0
4

「遅いじゃないか」
 雨の降る渋谷で、私はあろうことか支部長を待たせてしまった。
「すみません」
「十五分も遅れてる」
「寝坊しまして」
「全く君は」
 支部長は傘を広げ、咥えていた煙草を携帯灰皿にしまう。
「ここらの環境にも、そろそろ慣れてくれないと」
「はい。すみません」
 それにしても絶好の雨模様である。靴音溢れるスクランブル交差点ではあちこちで水飛沫が上がり、話し声を掻き消していく。
「さて、それじゃあ始めようか」
「はい」
 私はスーツのポケットから仕事道具を取り出して構えた。
 ……ところで少し前に流行った「天気を操る娘の話」、あれは私も見たが、まあ、なんというかいかにも人間の想像の産物という感じである。実際には、我々『天候管理部門』はあんな気まぐれにことを執り行ったりはしない。
「良い虹だ」
「そうでしょう」
 私と支部長は空を見上げた。
「これで私面接に受かったんです」
その他
公開:19/11/11 11:09

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容