思い出の場所

0
9

「遅い!」
1時間、待たせた僕に彼女が怒って言った。彼女は買い物を終えた後なのか、東急百貨店の大きな紙袋を持っていた。
「ゴメンって。荷物持とうか?」と僕は怒りを逸らそうと、彼女の荷物を指して言った。
「いや、あとで使うからいい。それより、なんでこんなに遅いの?」
「『思い出の場所で待ってる』とだけ言われても、ハチ公前にはたどり着けないよ。告白した場所かと思ってスカイツリーに行ってたよ」
「私には、ここが一番、忘れられない場所よ」
「でも、2人で渋谷なんか来たことあった?」
「ないわよ。私たち2人では」と彼女は「私たち」を、強調して言った。「今日は、もう1人、呼んでるから」
僕は顔から血の気が引いていた。
「ケンジ、お待たせ!」
その時、聞きなれた声が、僕を後ろから呼んだ。
目の前の浮気相手は、ひろ子を一瞥してから、紙袋を地面におろし、ゆっくりと開け始めた。
ミステリー・推理
公開:19/11/10 23:36
更新:19/11/14 21:24

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容