空を弾く音

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散歩中、小春日の空へ顔を向ける。――微かな音が弾けて風に散った。
高く澄んで綺麗。きっと爽やかな秋晴れだわ、見えない青を想像して、それが実際に見える色と同じかは判らないけれど。深呼吸したら、肺まで空に染まるかしら。青ってこんな味かしら。想像するだけは、何処までも自由だものね。
ここから独りで歩くわ。そう言ったらしばらく黙って、待ってるよと微笑った。離れて付いて来たって、音と匂いで判るのに。
――電線を抜ける風が、爪弾いて奏でる音。琴には絃が少なめ、途中で複雑な和音が入る。通信線が巻いてるのね、本数や形が予測出来て面白いわ。
ああ、失敗した。やっぱり意地張るんじゃなかった。私は空を聴く。彼は空を見る。共有出来ない世界を言葉で伝え合う。それが一番大事なのに。

振り向いて駆け寄ったら、慌てて抱き留めて、また微笑うんでしょう。あと100メートル。50メートル。10メートル。
彼の心臓の音がする。
ファンタジー
公開:19/11/11 20:37
更新:19/11/12 19:55
散歩道で見た③ 空に電線、風の音。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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