色づく便り

10
10

「ほら、あんたにも来てるよ」

お爺さんが落ち葉の山から抜き取った一枚に、私は息を飲んだ。懐かしい。まだ一年も経ってないのに。

秋も深まるころ、この墓地のケヤキは色づいた葉書をはらはらと散らす。差出人は墓の主たち。年に一度だけ、大切な人への想いを一葉に託す。

若い人たちは老人の耄碌だと取り合わない。老人たちは周りの冷笑など気にもとめない。私はどっちつかずの未亡人。還暦を迎えたばかりで逝ってしまったあの人は、まっすぐに文字を書けない人だった。

ひん曲がった文字には、あの人が溢れていた。跳ねる前の筆圧は強く、ちょっと過剰に払う。字を繋げるのは嫌いで、濁点や半濁点は異様に大きい。死ぬまで直らねえな、なんて言ってたけど…やめてよ。

「そろそろ焚き火にしますか」

老人たちが葉書を火にくべると、皺くちゃの顔が次々と赤く染まっていった。紅葉なんかよりもっと。あらやだ。私すこし呆けてきたかしら。
恋愛
公開:19/11/09 23:24

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容