ステップ

2
4

渋谷駅ハチ公前、スクランブル交差点を斜めに横断し、足早に公園通りを進む。
小さな地下劇場の前で息を整え、制服のタイを結び直す。
100に満たない座席の最前列、下手の一番端が指定席。暗転直前にリップを塗り、男の登場を待つ。
その小さな舞台に立つ男が、17歳の私のすべてだった。

楽屋口から出てきた男に駆け寄り、少しでも長く、会話が途切れないよう感想と質問を繰り返す。
いつしか制服ちゃん、とあだ名をつけられ、いつもありがとうと言われ、フイルムカメラの中の2ショットも増えた。
何気ない会話こそ特別で、何度も思いだしてはシーツの波の中でジタバタもがいていた。誰よりも側いると、波と熱に浮かれていた。

今、地下で声を張り上げていた男が渋谷のど真ん中、見上げる大型ビジョンの中で笑っている。
急に立ち止まった私を、隣で不思議そうに見上げる小さな手を握り、誇らしさと淋しさのステップで令和の公園通りをゆく。
青春
公開:19/11/09 20:23

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