思い出は香りとともに

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懐かしい香りに、たった今すれ違った若いサラリーマンを思わず目で追った。7歳年上の彼は、LOVELESSのジャケットにシャネルのアリュールオムの香水を身に纏っていた。
上京して初めての合コン、そこで彼と出会った。東京の中心で生きてきた彼にとって地方から出てきたばかりの私は興味の対象だったのだろう。スクランブル交差点に圧倒されている私の手を優しく引き、バスケットボールストリートと改名された通りを上った。FrancFrancの入ったビルのカフェで渋谷の街を見下ろしながら、初めて耳にする「サングリア」や「バーニャカウダー」を口にした。彼にまつわる様々なことは覚えているのに、彼とその時に話した内容は何一つ記憶にない。帰りのエレベーターで彼は私にやさしくキスをした。あれから月日が過ぎ、当時の彼と同じ年齢になった。久しぶりにFrancFrancに立ち寄り、もうあのカフェがないことを知った。
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公開:19/11/09 18:49
渋谷

mao( 東京 )

東京生活7年目のOL
 

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