一息の青春

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「ちょっとだけ、寄っていこうぜ」
 そう言って僕らには、いつも訪れている秘密の場所があった。
 そこは、県道に面した少しだけ開いた場所で、飲み物がワンコインで買える自動販売機が、一台だけ置かれていた。
 僕らはいつもあの場所を訪れては、自動販売機で飲み物を買い、くだらない事を語りあった。学校のこと、家族のこと、恋愛のことや、将来の夢のことなど、思い出せば切りがない。
 お互いが街を離れる最後の日も、あの場所から別れを告げた。

 あれから、五年。互いに街を離れていた僕らは、里帰りを機に、あの場所へと向かっていた。
 記憶を頼りに目的の場所にたどり着いた僕らの目に映ったものは、一台の自動販売機ではなく、一軒のコンビニ。
 田んぼだった場所は綺麗に整備され、駐車場とコンビニに変わっていた。
 あの場所で、百円玉で買える温もりが、遠い昔のことのように僕らには感じられた。
青春
公開:19/11/10 23:00
更新:19/11/18 12:55

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