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「ドア、ちゃんと閉めてッ!」
「えっ!?」
数センチ開いていたドアを慌てて閉めると、K子は申し訳なさそうな顔で謝った。
「ごめん⋯⋯」
その顔は恐怖に引きつっていた。
話を聞くと、一カ月ほど前にドアの隙間から誰かの目が覗いていたというのだ。
「扉の向こうには誰も居なかったし、ほんの一瞬の事だったから目の錯覚だとは思うんだけどね」
「アハハ、ずっと職場に閉じこもってるからよ」

仕事も終わり、私たちは気晴らしに美味しいものでも食べて帰ることにした。
地下鉄のホームに二人で並んでいると、電車が到着した。
ドアが開き車内に入ろうとしたとき、K子はギョッとした表情で足元を見た。
「嫌ッ!」
次の瞬間、K子は電車とホームの隙間に吸い込まれ、大声で制止する声も虚しく電車はゴリゴリと音を立てて停止した。

私の顔は恐怖に引きつっていただろう。
彼女の両足を掴んでいたあの手は、一体何だったというのよ──。
ホラー
公開:19/11/10 16:30

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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