勝利の女神

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東北本線下り。
刈り取りを終えた田んぼが続く一帯を、陽光が懸命に照らしている。
故郷に遡上する私は秋鮭のように傷だらけ。時刻は午前11時。乗客は少なく、隣のボックスシートで小柄な老婆がひとり、硝子の少年を口ずさんでいる。花柄のパーカーにもんぺのようなズボン。まだ乾ききらない泥のついた長靴。髪は緑色に染めて、ネイルには翼が描かれている。その手もまた泥だらけだ。
私は老婆のパーカーのひもが、一方に片寄りすぎていることが気になった。
「アンタひどい顔だねぇ」
「ボクサーなんです、私」
老婆は立ち上がると私の前に座り、泥だらけの手で、痣だらけの私の顔を、いたわるように包んでくれた。
私がパーカーの短い方のひもを引っ張ると、まぶしかった陽光は一瞬で消えて、車窓にあった景色も、老婆も、私の痣までも消えた。
私はリングの上で倒れたまま、カウントエイトで気がついた。まだやれる。立ち上がる私を歓声が包んだ。
公開:19/11/08 12:31

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