人とものの間

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――そろそろその可愛らしい襟巻の話をしてくださいよ。
と俺が指した先には、雨上がりの水面のように光を返す円環がある。先生との付き合いは短いとも言えない時分に差し掛かっており、もういいだろうと思ったのだ。
 先生の家は古く広い。庭の植物は旺盛だが人の気配は希薄で、頻繁に訪れているが細君の姿を見たことがなかった。そして俺は先生が時折愛おしげに薬指に指を遣る姿を知っている。
 距離感を誤らないように、さりげなく、しかし慎重に言葉を探る俺をみて先生は笑った。
――らしくないな。普段ならえげつないくらいに切り込んでくるのに。
――先生の為人は古物趣味にありありと出てますから。想いが強すぎるあまり幽婚でもしてるんじゃないかと。
 先生は何故か意表を突かれたように目を丸めた。
――残念だけど、これは自分で買ったものだよ。僕の周辺にも面倒見のいい人が多くてね。
 そう言って、ひどくやさしい笑みを浮かべた。
その他
公開:19/11/09 13:18

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