〼

渋谷駅構内を歩いていると、案内表示に、妙な落書きがされていることに気がついた。「渋谷」の谷の字の下部分に、斜線が入れられているのだ。
見ると、構内も構外も、渋谷と表記された部分はもれなくどれも、谷の下部が〼になっていた。流行っているイタズラなのか、駅には随分な数の表示があるのに、斜線はその全てに書き込まれていた。その後幾度も渋谷へ行ったけれど、谷の字の下部には、いつも斜線が入っていた。
どれくらいたった頃か、信号待ちをしながらふと駅を見上げると、谷の斜線はなくなっていた。
随分手の込んだイタズラだったなと思いつつ、特に気にも留めず、スクランブル交差点へと足を踏み出す。
と、俺の身体は着地するはずの地面をすり抜けて、まっさかさまに暗闇へと落っこちた。
急降下する俺の上では、たくさんの人が交差する。
小さくなっていくスクランブル交差点は斜めに渡る横断歩道がなく、大きく開けた、口の形をしていた。