待ち合わせ

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私は走っている。
時計を見る。待ち合わせの時間は過ぎてしまった。
心臓がきゅっとなって、胸の奥からざわざわと波が広がって行くような感覚は今まで何度も感じたことがある。
そう、私は焦っている。
大学時代の友人と久しぶりに会うため、私は上京した。
東京に就職した友人はもうすっかり都会の女になってしまったようだ。対照的に、私はまだ田舎の風景しか知らない。けれど、車さえ走らせればある程度のことは叶う生活に別段不満もない。
田舎に埋もれていく私を見かねて、友人は東京へと誘ってくれた。待ち合わせは誰でも知っている場所にしようということで「渋谷のハチ公前で」と言われた。フンフン、ハチ公ね。
渋谷駅に降り立ってから早30分、迫りくる人波をかきわけかきわけ、しかしハチ公は見えない。
おかしい、絶対におかしい。
あんなに存在感のあるもの、見逃すはずがない、と上を向く。
時計は進んでいく。
私はまだ走っている。
その他
公開:19/11/07 15:38

えりざべす( 本州 )

えり ざべす
自撮家 
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