星を見た交差点

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楽しい時間だったから、それが誘拐だとは思わない。優しい先生だったから、犯罪者だなんて言わないでほしい。
「もう大丈夫だ」
おまわりさんにそう言われても、楽しい時間を奪われたばかりでその意味がわからない。怖かっただろうと言われても、おまわりさんのほうがよっぽど怖い。
パトカーに乗せられて、警察署へ行って、父や母が迎えに来て、また連れ戻される山が、本当は一番怖いんだ。帰りたくない。俺にはダンサーになる夢がある。もうニンゲンだ。今さら熊に戻るなんてできない。調教師の先生は、木の実ばかり食べる俺にラーメンを与えてくれた。はちみつは蜂の巣を壊さなくても手に入ることを教えてくれた。先生は俺を助けようとしてくれた。それがどうして犯罪者になっちまう。
俺はおまわりさんを少しだけ噛んで外に出た。
多様性ってどこだよ。
スクランブル交差点で星に見えたのは無数の銃口。
「俺はここにいる」
先生のために俺は踊る。
公開:19/11/07 14:43
更新:19/11/07 16:50

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