宮益坂の途中で

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爺ちゃんは言ってた。
「わしは宮益坂を転がってきた婆さんと出会って結婚した。お坂さんにお願いするのさ。いい出会いが転がってきますようにと」
その日、僕は意を決して宮益坂に向かった。坂の下で手を合わせる。
(いい出会いをください)
坂を上ると、最初に転がってきたのは会社員だった。遅刻する!と叫びながらすごい回転で駅の方へ消えた。
次にきたのは男の子とお母さん。
「こども科学センターに行くんだ!」
男の子は笑いながら楽しそう。
巡回中の警官が転がってきた。ギターを抱えてミュージシャン、高そうな服を着た犬、回覧板を持ったお婆さん、制服姿の学生さん、セレクトショップのお兄さん。いろんな人が転がってきた。
(いい出会いってなんだろうな)
僕は考えた。
天辺につくと、女の子が坂の上で目を閉じて手を合わせていた。
「いい出会いがありますように」
女の子が目を開ける。僕らはお互いを見つけて一緒に転がった。
その他
公開:19/11/07 14:37

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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