渋谷を飼う

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私は中学生の頃、渋谷を飼っていた。渋谷をそっと両手に掬い、私の部屋に招き入れた。

「シブ!」
名前を呼ぶと渋谷は駆け寄ってきた。抱きしめるとパジャマに沢山の人ゴミが絡まるが可愛いから仕方ない。ドアの前でお座りして私を待つ姿もとてもキュートなのだ。

しかし夜になると体からレーザー光線を発し、部屋中を重低音でリズミカルに唸りながら踊り狂った。またある夜は体をピンク色に染め、猫のさかりのような艶声で泣き続けた。

中学生の私には、まだ渋谷は手に負えなかった。だからそっと渋谷を元へ戻した。

それから、どれくらい時間が経っただろう。ようやく渋谷に似合う私に成長した。私はスクランブル交差点の前に立ち、大きな声で呼んだ。
「シブ!」
交差点の向こうから渋谷があの時みたいに駆け寄ってきた。私は一回り大きくなった渋谷を強く抱きしめた。今度こそ渋谷と暮らすんだ。私はスーツに絡まった人ゴミを払った。
ファンタジー
公開:19/11/06 22:05

たらはかに( 日本 )

たらはかに

https://twitter.com/tarahakani
猫ショートショート入選 「猫いちご ・練乳味」
渋谷ショートショート入選 「スク・ラブラブ・ランブル交差点(哀)」とか。

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