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灰色の空。目を覚ました私が初めて見た光景。
いや、初めて見たと言うには語弊がある。私は傘である。その私がふと意識を、感覚を得た。
雨水を冷たく感じる一方で私を握る人の手は温かく優しかった。

それから月日は流れ幾星霜。人の身に変化はあれど私の身に変化はなかった。
物を大切にしてくれる人だった。雨風に打たれ、風化する私を何度も直してくれた。
ああ…この人の為なら私は幾らでもこの身を犠牲にしよう。

私は考える事が増えた。この感情を、この気持ちをあの人に伝えたい。
しかし意識を持てど私には口がない。伝える術がなければ、それは只の道具と同じ事。
だから私はあの人を雨から守った。私に出来る事と言えばこれだけだ。

ある時、私は付喪神として人の姿を得た。物の怪の類を見ると人は慄くと聞くがあの人は私に美しいと言ってくれた。
私はあの人を雨から守る術を失った。
しかし共に生き、寄添い合う術を手に入れた。
公開:19/11/06 19:25
更新:19/11/06 19:31

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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