イチバン

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私は狭く、熱気の篭ったコックピットでじっと信号を見つめていた。

エンジンの鼓動と甲高く叫ぶギアの鳴き声が身体中に響き渡る。

汗が止まらない。心拍数はどんどん上昇する。身体中に血が巡っているのがはっきりと分かる。飛びそうな意識を必死に保ち、信号の先にある景色に目をやった。

「お前も俺の餌食になるか?」

まるで悪魔がにやにやと笑みを浮かべ、私にそう呟いているようだ。

最前列から見る情景に、"死"の一文字が脳裏を過った。生きて帰れるだろうか。様々な感情が渦巻いて吐きそうだ。汗の量が一層増えてくる。私は、握られた手に目を向けた。

「パパが僕のイチバンだよ!」

グローブに描かれた"イチバン"の文字を見て、見送ってくれた息子の笑顔を思い出した。

「そうだ、俺がイチバンだ」

もう一度ぐっとステアリングを握り、信号を見た。

間もなく、ふっと信号の光が消え、24時間の戦いが始まった。
その他
公開:19/11/06 21:00
更新:19/11/06 13:25

湯浅ムネミツ( 茨城県 )

スポンジになりたい社会人です。

なんでも吸収し、自分のものにしていきます。

衝撃を与えられても、壊れず、強く生きていき
ます。

皆様、どうぞ宜しくお願い致します。

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