パトリアの人々

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携帯に一件の連絡が入った。それは待ち合わせに十五分遅れるという旨だった。十五分、脳内でそれを反芻する。十五分、これは微妙な時間だ。喫茶店で時間を潰すには短く、ただ待ち惚けるには余りに長い。暇というのはいつも唐突に、限って不要な時にやってくる。
ふと、辺りを見渡すと古寂びた建物に目が留まる。あれは、ここ一帯では有名な幽霊屋敷兼映画館だ。親の世代は皆一様に鉄板のデートスポットだったと強く語るが、俄には信じ難い。尤も、肝試しに訪れるカップルなら今も見かけるが。
若者の街で続く、昔ながらの映画館。耳心地こそ良いが、その実情は危ういものだろう。一体どのように生計を立てているのか、そんな益体もないことを考えていると、老夫婦が映画館へと入っていた。答えとは得てして近くにあるものだ。
ここは時代の先端、若者の街。しかし、それは今も昔も変わらない。誰かにとっての廃屋も、誰かにとっては思い出であり続けるのだ。
青春
公開:19/11/15 18:30
更新:19/11/06 21:23

莎 沙翁( 岐阜 )

平均的な高校生。

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