透明な壁
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渋谷のスクランブル交差点を全力で本屋に向かって走ってくる男がいた。
男は行きかう大勢の人々を器用に避けている。
本屋まで走ると男はなにもない空間にタックルをしてきた。
なにもない空間なのだから転ぶかと思えば、転ぶこともなく、まるで何かにぶつかったように後ろに倒れた。
何度も何度もそれを繰り返している。
見ていた本屋の店員は男が疲れて立ち上がったとき気になって話しかけた。
「どうして何もないところで、ラグビーのタックルのようなことをしているんですか」
男は目の前の空間を拳でたたいた。
「でられないんです。透明な壁に閉じ込められてしまったみたいで」
店員は驚いたが、男を怒らせないためにもわざと透明な壁を叩くふりをした。
耳の奥でガシャンという音が聞えた。
「ありがとうございました。割れました」
ホッとした男は店員に向かって深々と頭をさげると本屋のなかに入っていった。
男は行きかう大勢の人々を器用に避けている。
本屋まで走ると男はなにもない空間にタックルをしてきた。
なにもない空間なのだから転ぶかと思えば、転ぶこともなく、まるで何かにぶつかったように後ろに倒れた。
何度も何度もそれを繰り返している。
見ていた本屋の店員は男が疲れて立ち上がったとき気になって話しかけた。
「どうして何もないところで、ラグビーのタックルのようなことをしているんですか」
男は目の前の空間を拳でたたいた。
「でられないんです。透明な壁に閉じ込められてしまったみたいで」
店員は驚いたが、男を怒らせないためにもわざと透明な壁を叩くふりをした。
耳の奥でガシャンという音が聞えた。
「ありがとうございました。割れました」
ホッとした男は店員に向かって深々と頭をさげると本屋のなかに入っていった。
SF
公開:19/11/06 16:42
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