深夜に届く一通の

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「おめでとうございます」
配達員から私を受け取り、この家の主人は複雑な表情で微笑んだ。深夜の突然の来訪に戸惑っているのだろう。
「ありがとうございます」
その返事すら形式的で、感謝の欠片もなかった。私は歓迎されていないことにひどく落胆した。夫人とおぼしき女性が大声で泣いていた。一瞬、嬉し泣きかと思ったが、そうではなかった。この家の住人は変人だ。
私は仏壇の隅に置かれた。
翌日、主人が出かける時、夫人と子供達が盛大に見送っていた。それから主人は何日経っても帰ってこなかった。
数ヶ月が経ったある日、夫人がある報せを受けて号泣していた。突然、怒りに震えた瞳で私を掴んで、ビリビリに私を千切った。私は赤い紙切れとなって床に散った。
「あの人を返して」
私はこの家に幸せではなく不幸を運んでしまったのか。軍国主義は間違っていたのだろうか。
もはや紙屑となった招集令状の問いかけは、誰にも届かずに霧散した。
その他
公開:19/11/05 13:20
更新:19/11/05 17:25
スクー 教養を求めるレッドカード また変な方向に…。

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

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