悪夢のブリュレ

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それはとても華やかな模様のクリーム・ブリュレだった。ダマスクスのような騙し絵のような柄を、金と緑と紫で彩っている。蒔絵のような、金細工のような、とにかく美味しそうだった。
「これは今朝とれたての、貴方が見た悪い夢です」
黒いエプロンを身につけた、中性的な女性がそれを運んできた。
「割り砕いてください。その中にあるのが貴方の心です」
スプーンで押すと、パリンと悪い夢は割れた。キラキラと夢の粉を撒きながら、中から明るい色合いの心が溢れでた。
口に入れてみて、ハッとした気持ちになる。なんて舌に馴染む甘さのこと。華やかな香りのこと。美味しくて、懐かしくて、胸が酷く締め付けられる。
「泣いたらいい。泣くのが一番、貴方に響く特効薬です」
忘れてはいけなかったはず。でも思い出せない大切な心の傷跡。ほろ苦さと甘さが、私の涙を誘って止まらない。
悪夢の中身はなんだったろうか。私は今日も、思い出を辿っている。
ファンタジー
公開:19/11/03 17:13
更新:19/11/03 19:43

風月堂( 札幌 )

400文字の面白さに惹かれて始めました!
文字や詩のようなものを書くのが趣味です。
情緒不安定気味でアゲサゲ落差のひどい人間ですw
いろんな方々の作品を読んで、心を豊かにしていきたいです。

無料の電子書籍をつくりました。
『ショートショート作品集カプセルホテル【】SPACE』
a.co/1VIyjHz

『枇杷の独り言』
ショートショートコンテスト『家族』最優秀賞頂きました。

写真は全て自前でやっています(笑)

こちらで写真を紹介、ハガキにと販売しております!
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