ボーリング場がこわいわけ

　ボーリング場はこわい。なぜかというと見えないところがたくさんあるから。
　靴箱や、玉がガゴンッて出てくる穴や、倒れたピンが捨てられる穴や、吊り下げられたピンが出てくる奥や、ガターの玉が消える奈落や、玉がガゴンッて出てくるところのブォーってうなる魔王の檻や、玉にあいている三つの穴の奥がこわい。
　ガゴンッて戻ってきた玉は、僕が投げた玉にそっくりな影武者だ。穴に指を入れるのが怖いから抱えて投げるとお父さんは怒るけど、あそこに指をいれるなんて絶対にいやだよ。
　みんなが一生懸命に書いている変な記号や不規則な数列はきっと魔よけの呪文なんだ。
　僕は見えないところにいる人へ、玉の穴に「誰かいますか」って書いた紙をつめてガターを出してみたことがある。
　ガゴンッて戻ってきた玉の穴に入っていた紙には丸くなった鉛筆で「助けて」って書いてあった、本当だよ。
　だからさ。だから僕はボーリング場がこわいんだ。