夜更けのハイビスカス

16
14

渋谷と聞いてスクランブル交差点やハチ公を連想する人は、まだまだまだだ。
センター街に吸い込まれていく人波を尻目に、のんべい横丁に入り、右に曲がってから真っすぐの路地。
丑三つ時を過ぎた夜明け前。このタイミングでなければ、ダメなのだ。
今日は、タイミングが完璧だった。路地に足を踏み入れた瞬間、ゆらりと霧がかかり、目を開けると両脇には、無数の屋台があった。
「あんたも、好きだねえ」
ハクビシンの姐さんが、煙管と燻らせながら出迎えてくれる。
「花、花はいらない?」
足元に、ネズミの花屋が来ていた。小さな花屋の屋台は、灯に揺られて花束の様だ。
「ハイビスカス一個」
財布を出すわずかな間に、ネズミたちが、次々花を売りに来る。
「最近増えてね、ネズミも大変よ」
「あたしら絶滅危惧種もからしたら、うらわやましいわ」
造花のハイビスカスを差しながら言うと、ハクビシンは「ヤマンバも大変ね」と笑った。
ファンタジー
公開:19/11/04 12:00
渋谷

七下(ななさがり)

旧「はるぽこ」です。
読んでいただき、ありがとうございます。

400字制限の長さと短さの間で、いつも悶えています。
指摘もコメントも、いただけたらすべてを励みにします、大歓迎です。

【優秀賞】
渋谷コンテスト「夜更けのハイビスカス」

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容