あの時の音色

楽器即売会は戦争である。特に鍵盤楽器を取り扱っている場所は一番危険だ。
何でって？そりゃ、鍵盤楽器の販売員に「弾いてみませんか？」と問われては断ることが出来ないからだ。
試しに弾くは試弾っていうんだ。それを断ると否弾したとみなされる。
否弾は被弾。つまり体のどこかに弾が当たる。怖いだろう？だから断れないんだ。
特に鍵盤楽器は連弾と言って複数人で弾くことが出来る。まさに音の雨あられってわけだ。
試弾を終えれば無事帰ることが出来る。適当に弾いて帰るのも勿論ありだ。
でも、ここは音楽の戦場。あちこちで飛び交う音の弾を受けて、何も感じない演奏者なんていない。
だから皆、ついつい演奏に熱が入ってしまうんだ。
気付けば自前の楽器を持ってくる奴も増えてきた。そうした演奏者が増え、いつしかここはオーケストラと呼ばれるようになった。
あの時の暴力的な音色がまさか今こんなにも美しくなるとは思わなかったよ。