市女笠の娘(150作品目記念)

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その娘は市女笠(いちめがさ)に虫の垂衣(たれぎぬ)を気に入っていたため“いちめ”と呼ばれていた。

親戚筋でも変わり者と評判の御婆(おばば)のところへ、母御前(ははごぜ)から頼まれた葛(かずら)を煮込んだ菓子を届けるところである。

供回りもつけず、ひとりで出かけるのを家中のものが危惧するのをよそに、大好きな御婆に会えると、娘は上機嫌であった。

村外れの一軒家に着いたのは昼時。御婆は床に伏せていた。娘は笠をとり脇に座り、手を取りながらこう言った。

「おばば、母御前から届け物を持って参りました。これでお元気になってくださいませ。」

「いちめ、よく来てくれた。ただ、その葛よりもわしはそなたが欲しい。」

白昼の惨劇。

その後、村外れの森の中で、赤い虫の垂衣を下げた市女笠の娘が目撃されるようになった。とくに誰かに危害を加えることもなくさまよう影を人々はこう呼ぶ。

“あかいちめ”と。
ホラー
公開:19/11/02 17:30
更新:19/12/01 00:27
150 赤ずきん オオカミの自信作

武蔵の国のオオカミ( ここ、ツイッタランド、タイッツー )

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