見下ろしたらいつもと違うものが見える

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「だから別の場所にしようって言ったのに!」
 私は憤慨していた。それはもう腹を立てていた。
 今日は私の誕生日。不精な彼が珍しくお祝いしようと言ってくれて感激したのだけど。
 渋谷駅前イタリアン。待ち合わせはハチ公前。って、
「だから! ここは人が多すぎるの!」
 右も左も人人人。ここから目当ての相手を探し出すのは困難だ。何度も訴えたけど、彼は頑なに場所を変えなかった。
「かくなる上は」
 目の前にガラス張りの商業ビル。
 あそこに登れば、少しは探しやすいかもしれない。
「会えなかったら置いていってやるんだから!」

 ビルの二階に登った私は、ハチ公の隣で大きな紙を掲げる人に気がついた。
「あれは」
 彼だ。上を向いて紙をすっぽり被って、というか紙から顔を突き出している。

 紙には大きく『結婚しよう』の文字。

 下にいちゃ見つからないわけだ。
 とりあえず私は大急ぎで引き返す事にした。
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公開:19/11/02 13:39

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