テーマは節目でお願いします

　食堂で原稿用紙を前に考え込んでいると、「百足！」という妻の悲鳴が物干し場から聞こえた。手近な紙を筒状にして駆けつけると百足は逃げた後で、妻が胸に手をあてて息を整えているところだった。妻は私が持っていた筒が原稿用紙だったことがおかしいらしくクスクスと笑った。
　食堂に戻ってお茶を飲む。
「いい気分転換になった。実は行き詰っていてね」
　原稿のテーマは節目。私は先ほどようやく「極月の憂き目に遭いし節目かな」をひねり出したのだが、何か感じが違うのだ。
「君はどう思う？　節目というのは転機とは違う。ひと段落。句点。きちんとまとまっているけど、何かが終わるわけではない。なんというか、『のし袋』という感じなんだが」
「お節料理の節かしら。公式な感じよね。暦的で祝福できるような。金婚式とかね」
「そういえば、僕たちは真珠婚式だね」
「ずっと変わらずに続くことへの感謝ね」

『色変えぬ松年輪を節目とし』