赤錆た歯車⑤

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少女は島のどこにいるのだろう。母が死んだばかりだというのに、その事ばかり考えていた。

「もし」

ぼんやりと歩いていた男の前に唐突に老婆が現れた。ビクッと肩を揺らす男に丁寧な謝罪をしてから、彼女は大切そうに小さな歯車を差し出した。赤く錆びた歯車だった。

「お嬢さまの心臓の一部でございます。お嬢さまが亡くなる直前に、日本の殿方に渡して欲しいと……」

老婆は涙で頬を濡らしながら差し出す。受け取る義理などないのだけれど、潤んだ老婆の瞳と「自分は死ぬんだ」と笑った少女の顔を思い出してしまい、拒むことはできなかった。

「あなた様の旅に連れて行ってください…お嬢さまの夢でございました」

彼女は島から出られなかった。機械仕掛けの心臓を持つ彼女は、歯車のメンテナンスで、旅など夢の話だったらしい。老婆は言葉少なにそんなことを語り、男の手に歯車を包んだハンカチを握らせると逃げるように去ってしまった。
その他
公開:19/11/02 09:02

あやめ( 北の大地、本屋 )

思い付いたことを思い付いた時にぽそぽそと書きます。
起伏のない文章なのでさらーっと読み流していただければ幸いです。

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