涙の国のアリス（上）

「泣いてる女の子には、王子様のキスって決まってるのよ」
「泥棒は、王子様じゃございませんよ、女王陛下」
出窓の鍵をカーテンごと握る。通せんぼしてれば、帰ろうったって帰れないんだから。
「違うもん！名前が后（きさき）なだけだもん！」
怪盗ラパン。もっと紳士でスマートで、知的で優しい人だと思ったのに。私の事、女王女王って冷やかす、クラスの男子と一緒じゃない。
「はいはい、悪うございました。どうか機嫌を直して、そこをお通し願えませんか、后ありすちゃん？」
「嫌。キスしてくれるまで、帰さない」
「……悪い子には、お仕置きが必要かな」
背の高い影がのし掛かる――思わず飛び退いた。ラパンの腕が、私じゃなく、棚の写真立てを取った。
「駄目、返して！」
「嫌。これは戦利品」
意地悪く指で弾く。写真がぱっと消えて真っ白になった。
「ブランシュ！」
「君が泣いてる元凶、ウサギのブランシュ、確かに頂戴しました」