あの時の音色

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父が倒れた。
上京し、歌手を目指して5年目。そろそろ夢を諦めるべきかと考えていた矢先の一報だ。
俺はすぐに父のいる病院へ向かった。
病院で眠る父の命に別条はない。だが目を覚ます様子もない。
母からそう伝えられた。俺はどうするべきなんだ?
その夜、実家の部屋で寝ているとラップ音が聞こえてきた。うるさくて眠れやしない。
それは母も同じで父が倒れて以来、毎晩この音に悩まされているという。
鳴りやまないラップ音に俺はキレた。
俺はマイクを持つとラップ音に合わせてラップバトルで培った技を披露してやった。
全て言い終えるとラップ音は止んでいた。
すると深夜にもかかわらず病院から電話がかかってきた。父が目を覚ましたらしい。
「いいラップを聞かせてもらったぞ。まさか御経をラップで唱えられるとは思わなかった」
住職の父は改めて俺に寺を継がないか?と聞いてきた。
あの時のラップ御経で良ければと俺は答えた。
公開:19/10/30 18:34

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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