マルドレアモンの歌

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ひとり、すれ違うたびに対象の無い屈辱と鬱憤が初めて非言語の中でヒレを持つ。いつの間にそびえ立つあの整頓された人工の飲み込み口に、血がつたっていたならば少しは愛せようか。無性格の群衆が行き交う都市の心臓で、猥雑な会話と笑顔に隠れて再びイメージが鎌首をもたげる。蝟集するコインロッカーの全てに、街の魔物に殺された人々の首が並べられていたならば、ここでの呼吸は違う色を持ちそうだ。ひと息離れた川沿いの、吐瀉物の名残と煙が染み込んだタイルを眺める疲れた男と女、空を仰いで唇を舐める。ひとつゴミ箱に道化師の仮面でもあったらば、疲労の群舞で生きる街は別の動力を持つかしら。彼らはもの言わず、美学が欠落したネオンに虹彩が殺められる瞬間も、脚に魔物の吐息が絡まることも気づかない。そうして浮かんだ自由の幻想は今日も平穏と喧騒に塗れてただ灰色に帰していく。
ホラー
公開:19/10/30 17:04

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