こけしのハナコさん Episode:0

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 日ごと速まる雨音に、人は秋を忘れていた。雨の団地の片隅で、真紅のドレスがゆらゆらと踊る。まるで置いてけぼりの秋が燃えるように。――祈るように。

 年老いて歩けなくなってからも、陽葵は椅子に座ったままフラメンコを踊った。体が衰えても彼女の情熱は一層深まり、奏でるリズムは観客の魂を震わせた。三十年共に暮らすアンドロイドのハナコも、陽葵の踊りに心奪われた一人だった。
「雨の日は節々痛んでいけないねぇ」
 陽葵は雨が降ると踊れないが、ハナコはそんな日も好きだった。ハナコは機械の指を器用に操り照る照る坊主を作る。雨音に合わせてフラメンコを踊る照る照る坊主たち。そして陽葵はガタがきているハナコの関節一つ一つに油を差して労った。

 ある夏の終わり、陽葵が息を引き取ると、ハナコは陽葵の衣装を着けて、何日も何日も踊り続けた。やがて油が切れて踊れなくなると、ベランダにぶら下がり、手足を捨てて空に祈った。
SF
公開:19/11/01 07:07
更新:19/11/01 21:39
陽葵(ひまり) そしてこけしに 節目

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