節目

「これがお母様の人生の糸です」
　息を引き取った母の枕元に降り立った天使が、赤い糸の端をつまんで持ち上げた。もういっぽうの端は空高く、雲の上までつながっている。
「糸にたくさんの結び目があるでしょう。この一つ一つが人生の節目なんですよ。例えばお祖母様が亡くなった節目は、これですね」
　端から一番近い結び目を指差して、天使が微笑む。
「さあ、お母様の人生の節目を、あなたが作ってあげてください。それでお母様は天に召されます」
　赤い糸の端を持ち上げて、天使が私に差し出した。
「お母さん、今までありがとう。そして、さようなら」
　赤い糸をつまんで端を固く結ぶと、赤い糸はキラキラと輝いて、そして見えなくなった。
「今あなたが作った節目で、お母様の糸とあなたの糸がつながりました。お母様はこの世からいなくなっても、あなたとつながっています。節目とは、人と人とをつなぐ硬い絆なのです」