悠遠の青はそこにある

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"青い空"というものを、空は見たことがない。
神の怒りに触れたとされる天災により、人類が住みえる場所は限られ、その場所すら水に呑まれつつある今。
シトシトと振り続ける雨は、天災から百年余りたった今日も変わらず地上を水で満たしていた。
『ジジッ…本日の予測降水量は10mm/h…比較的穏やかな…』
雨の中をふわふわと浮かぶ政府専用浮遊型通信機"海月"からは、今日も今日とて雨の話題ばかり。
「空が青いなんて嘘ばっかり」
黄色のカッパに見を包み、大きすぎるゴーグルを身に着けた少女は一人、濡れたコンクリートの上に寝そべる。
今年で10を数える空にとっては、太陽も乾いた地面もお伽噺の世界だった。
ゴーグル越しに見える空は、ぼやけていても変わらず灰色で、母の語った"空"とは似ても似つかない。
「…あーした天気になーぁれ」
少女の青い瞳は、まだ見ぬ空への憧れで輝く。そこには確かにかつての空があった。
ファンタジー
公開:19/10/29 18:27
更新:19/10/29 18:32

mono

思いつくまま、気の向くまま。
自分の頭の中から文字がこぼれ落ちてしまわないように、キーボードを叩いて整理整頓するのです。

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