渋谷区代官山町21F

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お風呂から上がると、顔を合わせた夫はわずかに残念そうな表情を見せた。「おお、エリ、素顔の君ももちろん美しいよ」との余計な一言に苦笑する。
日中、私は化粧を怠らない。カーテンの取り払われた21階のこの部屋の窓。晴れの日、一面の青空をバックにした私は、異国のサバンナをかける野生動物に見えることだろう。
一昔前に流行したこのメイクを、夫はアートと呼ぶ。世界有数の実業家である夫の感性は、正直私にも理解できない。白と黒のコントラストがとりわけ美しい、と私は彼に見初められた。
内気で友達もおらず、毎日絵ばかり描いていた少女時代。意を決した高校デビューが、こんな物語を連れてくるなんて。震える手でマスカラを握った、あの日の自分に教えてあげたい。
なめらかなソファに腰かけ、私が爪の手入れを始めるのを、隣で夫がうっとりと眺める。長くて、先の尖った爪の隅々までラメを塗りつけていく。どんな幸せも、逃さないように。
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公開:19/10/28 23:29
更新:19/10/28 23:56

つゆ

森絵都さんの『ショート・トリップ』が大好きです。

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