フェミニンの芯

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もうだめかもしれない。
私は今、断崖から突き出た木の枝につかまり、いつ来るとも知れぬ助けを待っている。手は感覚を失い、脳はあきらめの走馬灯を映し始めた。
ここはタンザニアを流れるパンガニ川の源流、キリマンジャロの山中。私はここでしか取れないアロマオイルを求めて、崖に育つ植物を探していた。
こんなことをこんなときに言うのはどうかしているけど、私はフェミニンだ。
幼い頃から周囲の人たちに、かわいいねフェミニンだねと言われ続けてきた。最初はよくわからなかったけど、思春期になるとそれが嬉しくなり、武器になることも知って、フェミニンを前面に生きることにした。セクシーではなくフェミニン。それが私。
大自然の中、死を目前にして、私は最後のツイートを残した。
「ずっと言えずにいたことがある」
数日後、滑落した私は、崖の中腹で宙吊りのまま発見された。
一本のヒゲが岩に突き刺さり、私の命を救っていたんだ。
公開:19/10/30 13:47

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