泣きっ面に怪盗

同僚が急病でダウンし、休日出勤に残業。晩飯どころか午前様の勢いだったが、やっと終わった。
デスクの引き出しを開ける。もうただの紙くずだ。しかし、捨てるに忍びない。

『お父さんの嘘つき！大っ嫌い！！』
涙を溜めたくしゃくしゃの顔。
ごめんな、約束してたのに。誕生日プレゼント、遊園地のフリーパス。こればかりは、別の日だと意味がない。鞄に突っ込みオフィスを出る。
自分の不甲斐なさが憎い。俯いて歩いて、うっかり人とぶつかる。
「あっと、失礼」
「構いませんよ。慰謝料はいただきました」
慰謝料？妙な人だ。いや、今はそれどころじゃない。

「ただいまー、一体、何の騒ぎだい？」
強いて普段の声。まだ泣いてるのか？胸が痛む。
「お父さん！」
かじり付いた息子の手に、見覚えのないカード。
『君の大嫌いなお父さんは、今夜いなくなる～怪盗ラパン』
後で気付いたが、鞄に入れたチケットは、影も形もなくなっていた。