ゲートを過ぎて

　渋谷にはいろいろな「ゲート」があって、通るたびに違う自分になれるんだって。銀座線での女子高生の会話。でも、楽しみ過ぎると、黒いゲートが……。
　坂を上る途中、突然ＩＴ系会社員になっていた。会話を思い出す。慌てて道を曲がり歩道橋を過ぎる。街の色が変わる。ゲート？　帽子をかぶりギターを持っていた。
　カリスマ店員。お金持ち。大学生。クラシック奏者。劇団員。陸橋や線路やアーケードを過ぎるたび、街の景色が変わる。自分が変わる。これがゲート？　色々な顔が、楽しい。
　夜更け過ぎまで遊び、幾つも通り過ぎ、ふと思う。渋谷を楽しみ尽くすと、何が残る？　気がつけば、地下鉄やＪＲの入口が暗い、いや、黒い。近づいてくる。囲まれる。
　渋谷から出てしまえば。銀座線なら高い場所にある。古い電車に乗り込むとすぐ動き出した。これで渋谷を脱出できる。
　電車がポイントを通過した。古い車両の車内灯が、消えた。