蔦ビデオ

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この都会の街の裏通りに、小さなビデオ屋があった。
店内の棚には「蔦」という題名のビデオテープだけが並び、ぼくは何気なくそのうちの一本を借りて帰った。

ところが、再生機にかけても何も映らない。
不審に思って中を調べてみると、テープの代わりに小さな葉の生えた植物が巻かれてあった。
「蔦?」
葉に触れると、するすると蔓が伸びて腕に絡みついた。
「うわっ!?」
助けを求めて外に飛び出したが、少し歩いたところでぼくの全身に巻き付き、身動きひとつ取れなくなった。辺りを見廻すと、ぼくと同じような蔦人間がたくさん佇んでいた。

数日が過ぎ、みるみると繁殖した蔦で街は密林と化した。
ビルよりも高い巨大な蔦の壁が街の周囲を覆い、やがて半円球の閉じた世界を創り上げた。完全なる闇の中、蔦人間となったぼくたちは天を見上げ、両眼からは煌々とした光を溢れさせた。
それは、穹窿の大スクリーンに天の星々を映し始めた──。
ファンタジー
公開:19/10/27 23:59
更新:19/11/17 10:47

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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