風船が萎む日

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僕は風船が苦手だ。

小さい頃、ショッピングモールで店員さんが笑顔で渡してくれたことが何度かあった。断るのも子供らしくなくて、という考えを持つ僕が一番子供らしくないんだけど、とにかくその笑顔と風船を断ったことはなかった。
空気と思い出を含んだ、丸くてかわいい色をしたそれは確かに愛らしい。でも、手を離すと届かないところへ逃げてしまう風船が寂しくて堪らなかった。飛んでいっても背の高い父がひょいと取ってくれる家の中でも問題はあって、萎むのが怖くて風船に触ることができなかった。
「ねえパパぁ、ふーせん届かない!」
僕の娘は、今のところ風船が大好きなようだ。家の天井にぴたりと浮かび上がったそれをひょいと掴み、娘にやる。
「ありがと、パパ!」
数日後、または数週間後、彼女も風船が萎む寂しさを感じたりするんだろうか。空気と共に思い出までなくなってしまう、と。そうしたら、またこの風船を膨らませてあげよう。
その他
公開:19/10/27 20:34

書くことが好き。音楽方面のライターを目指しています。Twitter→@r_dorfer_

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