あの時の音色

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妻のお腹に手を当てる。赤ちゃんが妻のお腹の中を蹴っている。
妻のお腹に耳を当てる。赤ちゃんの鼓動がとくんとくんと聞こえる。
当時、僕は幸せの絶頂だった。娘の誕生に僕は大喜びした。
だが今の僕はそれを超える幸せを噛みしめている。
目の前には娘のお腹に耳や手を当て、幸せそうに笑う娘の夫がいた。
緩み切った頬が何とも情けない。こんな男に娘と孫を任せて大丈夫か?
「貴方も昔、同じ顔をしていたわよ」
妻に指摘されてしまった。
彼もきっとあの時の僕と同じ音色を聞いているに違いない。
幸せの足音を。幸福な未来の鼓動を。
彼もまた、今まさに幸せの絶頂なのだろう。
だが僕はそんな彼を絶望させてやろうと思っている。
かつて僕もやられた。娘が私より義父に懐いた。
あの時の義父のドヤ顔は私を不幸のどん底に落とした。まさかこんなにも早く娘を奪われるなんて!
今なら義父の気持ちもよく分かる。だから覚悟しておいてくれ。
公開:19/10/27 18:33

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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