蟹は旨いから

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 「蟹だ」と、夫は口ごもりながら言った。そしてそう言ってしまってからは、まるで言葉が途切れるのを恐れるかのように、まくし立てた。
「蟹だ。蟹の甲羅だ、あの蟹づくしの店を覚えているな覚えているはずだなあの蟹づくし2万円の毛ガニを俺が解体した毛ガニをメリメリと甲羅をはがしたときに見た見たか気づいたんだ背側と腹側とをメリメリはがすとプラモデルみたいな凹凸が六つにセメンダイン匂い、ハサミも表と裏に分解した分解したら扇風機の金網をとめるプラスチックのパチンというのと穴と穴にはめるでっぱりが四つもだぞ、ハサミの表と裏をかみ合わせるだけのために、脚は脚には脚にはゾロゾロと手がいっぱい海老の小さい脚みたいなやつが百か千か縁にゾロゾロ並んでいてそれらが互いにしっかり指を絡めあって甲羅がずれないように絡めあってたから俺はその一つ一つを引き剥がしていたのをお前知っていたか知らなかったろう蟹は旨い蟹は旨いからな」
その他
公開:19/10/27 10:12

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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